ことばと文化

形式的な枠から柔軟な世界への一歩

オレンジ箱の可愛いばったり倒れ屋さん

現在では,チェブラーシュカをご存知の方も日本に多いのではないでしょうか。
小さな体に大きな耳,子グマのようなサルのような容姿をした愛くるしいソヴィエト・アニメーションのキャラクター,チェブラーシュカ♡

ただ・・・このアニメーションの元々のタイトルは・・・

«Гена и его друзья»
(ゲーナ イ イヴォ ドゥるズィヤー)
「ゲーナと彼の友だち」

そうなんです。主役はワニのゲーナで,チェブラーシュカは友だちの一人という立ち位置だったんです。

1966年にЭдуард Успенский(エドゥアルド ウスペンスキー)によって絵本に描かれたワニのゲーナ。1969年には人形アニメとして彼らの存在はロシア,そして世界中の人々に知れ渡るようになりました。

Гена (ゲーナ)とは,Геннадий (ゲンナジー) の愛称で,この名前はロシアでも耳にする名前なのです。
では,チェブラーシュカという名前はどこからでしょう?

これは,チェブラーシュカ初登場のシーンに由来があります。
南国から運ばれてきたオレンジ箱の中にうっかり入っていた茶色の小さな可愛い子。

オレンジ箱で運ばれてきたチェブラーシュカ(0:45)

ウトウトと寝ぼけ眼な可愛い子は,ちゃんと座っていられず,バタン。バタン。眠いので何度もゆらゆらして倒れてばっかりなんです。
果物屋さんでオレンジの量り売りをしていたおじさんは,このバタバタ倒れる可愛い子に名前をつけちゃいました。

そのときのセリフがこちら。

Опять чебурахнулся. Фу ты, Чебурашка какой.
(アピャーチ チェブらーフヌゥルシャ. フー,ティ チェブラーシュカ カコイ.)
「また,倒れちゃったよ。なんだ?お前さんはばったり倒れ屋さんなのかい。」

こんな風に,「倒れる」という動詞を愛称のように変化させてチェブラーシュカと命名したのでした。

ソ連アニメの特徴の一つが,「ちょっぴり可哀想なお話,でも最後には心温まる」というものなんです。
ゲーナが主役のときのお話,チェブラーシュカが主役のときのお話,いずれもちょっぴり悲しい入りからなんです。
でも,その悲しさや寂しさをみんなで解決して,ちゃんちゃん♪というハッピーエンドなお話が詰まっているシリーズです。

チェブラーシュカの登場は,アイデンティティの危機からはじまります。
果物屋さんのおじさんは,「おまえさんをどうしたものかな?」とつぶやき,チェブラーシュカは「わかんないよ。」と答えます。
おじさんは,どこか決まったところへの所属をチェブラーシュカに求めていました。そこで,動物園に連れて行ってみたのです。
ちなみに,ワニのゲーナは,「ワニ」として動物園の檻に勤務しています。

Не… этот не пойдёт – неизвестный науке зверь.
(ニェ・・・エタット ニ パイデョット - ニイズベースニィ ナウーケ ズヴェーり.)
「いやぁ。。。こりゃ,ダメだな。生物学でもわからんぞい。」

Не знают, куда его посадить.
(ニ ズナーユット,クダー イヴォ パサディーチ.)
「どこに,この子を配属させたものかわからんとさ。」

動物園で配属不明とされるチェブラーシュカ(1:11)

頼るところがなく,チェブラーシュカは電話ボックスにとりあえず住むことに・・・。駒を回し,孤独の中にいるチェブラーシュカが映し出されます。このお話の背景として,ワニのゲーナも孤独の中で暮らしており,誰もが孤独にあるという様子が描かれています。

孤独なチェブラーシュカ (1:23)

そんなある日,ワニのゲーナは友だちを求めて募集を出しました。

Молодой кракодил хочет завести себе друзей. Точка.
(マラドイ クらカディル ホーチェット ザヴェスチー スィベー ドゥるゼィエイ.トーチカ.)
「若いワニが友だちを集っています。「まる」っと。」

その募集を書いた紙があちらこちらに貼り付けられ,チェブラーシュカの電話ボックスにもペタリ。このシーンでのチェブラーシュカは,ロシア語が読めるという設定だったので,ゲーナの家にたどり着くことができ,2人は出会います。

ゲーナの家には,人間の女の子がすでに遊びに来ていて,積み木をしていました。そこへチェブラーシュカが「僕だよ。チェブラーシュカだよ。」と自己紹介。「あなたは一体だれだっていうの?」「あなたは,もしかして,こぐまちゃんじゃないでしょうか?」と女の子は尋ねます。

チェブラーシュカは,

Может быть, не знаю я.
(モージェット ビィッチ,ニ ズナーユ ヤ)
「たぶんね,でもわからないよ,ぼく。」

と・・・。

そこでゲーナは,辞書でチェブラーシュカという意味を探します。
でも,やっぱりチェブラーシュカという名前はありません。

Значит, вы не будете со мной дружить?
(ズナーチット,ヴィ ニ ブーデェチェ サ ムノイ ドゥるジーチ?)
「つまり,ぼくとは友だちになれないってこと?」

悲しそうにチェブラーシュカは尋ねます。

Почему? Будем!
(パチムー?ブーデェム!)
「なんで?私たち,友だちになるわよ!」

女の子とゲーナは,それぞれ編み物やシャボン玉を教えてあげると言い,チェブラーシュカを快く受け入れました♡

チェブラーシュカの受け入れ (3:08)

第1話のお話には続きがあり,孤独なお友だちがたくさん集まり,力を合わせて1つの大きなことを成し遂げます。

さてさて・・・

「チェブラーシュカ」は「可愛い♡」というお話だけでは終わりません。
第1話を見ると,何もかもが辞書によって説明されていて,定義化,明確化されていた,これまでのソ連の文化が見て取れます。

1953年,スターリンが死去し,フルシチョフによるスターリン批判,東西冷戦の緩和,また検閲制度は残るものの,表現の自由がある程度認められるなど,様々な分野での価値観が一気に変わりました。

1960年代のソ連の「雪解け」は,人々の生活に大きな変化をもたらしました。

ソ連に少しずつ開かれた世界。

これまで自分たちの生活にはなかった,外国文化の取り入れは,未知の存在として描かれたチェブラーシュカに表れているのではないかと考えます。これまでのソ連の姿と変化していくソ連です。

  • 外国から突然来た正体不明のチェブラーシュカ
  • チェブラーシュカの働き場所を求めて動物園に連れていく果物屋さん
  • 辞書でチェブラーシュカの名前を調べるゲーナ
  • 孤独を抱えるたくさんの人たち

「チェブラーシュカ」シリーズには,当時のソ連文化,生活様式をはじめ,生活の変化に戸惑いながらもそれぞれの居場所を探し求める大人や子どもの姿,新たな価値観を取り入れ,そこからみんなで何かを成し遂げる,という様子が描かれているんではないでしょうかね*

ところで・・・

哀愁漂う音楽もソヴィエト・アニメーションの魅力の1つです♪
「チェブラーシュカ」シリーズにも,ついつい歌いたくなる曲がたくさんあります☘
こちらは,別の記事で扱いたいと思います*

ちょっぴり悲しそうで,控えめなチェブラーシュカ。
「雪解け」時代に生まれた可愛いチェブラーシュカ。

どうぞ,よろしく☘
写真は,ハバロフスクで撮ったゲーナとチェブラーシュカです。ちょっと見た目が怖いかも・・?笑

歌うゲーナとチェブラーシュカ@ハバロフスク







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30代,ロシア語と英語を勉強中。 小さなこころみを重ねて進めていきます☘ ウラル大学,モスクワ言語大学に留学していました。

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